植物学者であり、万太郎(神木隆之介)のモデルである牧野富太郎は、故郷の高知にいた頃、自由民権運動に関わっていました。NHK総合の『らんまん』では、牧野が単に植物オタクだったわけではなく、植物を人間に見立て、無数の植物に名前をつけ分類し、社会における人間、ひとりひとりの個性を尊重し、誰もが公平に生きていくことを願っていたという解釈が、万太郎によって描かれています。牧野の名言「雑草という草はない」も、草を人間に置き換えて考えることができるように、物語が構成されています。
しかし、牧野は熱心な自由党員であったと自叙伝に記されています。ただし、その自叙伝では自由党の活動については手短に記述されただけであり、学問に打ち込むために党を離れたとのことです。そのため、牧野のモデルから植物と社会運動との関連性を強く感じることはできません。ただ、時代の流れから地元民である板垣退助が自由民権運動の求心力であったため、「郷里も全村こぞって自由党であり」(自叙伝より)、牧野も当然に自由党に親しんでいた印象を受けます。しかし、『らんまん』では植物と社会・自由を強く結びつけています。
現在よりも厳しい生活環境で、通信や交通も発達していない時代に、四国の地方である土佐の教育力や学問への熱意が高かったことが、自由民権運動が起こるきっかけとなったこと、そして坂本龍馬、ジョン万次郎、板垣、牧野冨太郎といった人物たちの繋がりなど、当時の動きが繋がって面白いと感じます。
地方の熱意を巧みに取り込み、東京や都会至上主義を貫いてきた現代社会は、少子化に驚き、地方へ移住を促しても間に合うのか疑問です。しかし、薩摩や長州など、各藩ごとに本当の地方自治があったことが、特色ある文化を生み出し、海外でも活躍する志の高い人々を輩出したのだと、感慨深く思います。
多くの現代人に共通するテーマが描かれ、15分という短い時間に深い考えを与えられます。見せ場でワクワクしながら、万太郎、綾、竹雄のそれぞれの立場を通じて、生き方について考えさせられます。
また、俳優陣の演技も素晴らしく、特に万太郎役の神木隆之介さんの演技力と表情の豊かさは、この脚本を最大限に生かしていると思います。久々に満足できるドラマに出会えました。
自由への問いではなく、日本の現代史において社会がひっくり返った出来事は2つあります。1つ目は明治維新、もう1つは太平洋戦争の敗戦です。この朝ドラの時代背景は明治維新であり、人々は文明開花と近代化の奔流をどのように受け止め、生きてきたのでしょうか。つまり、希望だけでなく、眩しすぎる自由の光とその眩しさから生じる濃い闇を、的確な社会批評を交えて描いているのは、脚本の長田さんが井上ひさしの影響を受けているためかもしれません。前作や前々作と比較すると、ストーリー展開のテンポが良く、15分でもきちんと起承転結から次回へ続くような工夫が演劇的です。小説も演劇もドラマも、世界と個人の対峙を描きます。そして、戦争や恋愛などがその典型ですが、本作はその基本をしっかりと守っています。
万太郎は、後悔して生きてきたジョン万次郎の言葉を受け、植物分類学のパイオニアとして生きていくことを決意しました。綾はおばあちゃんの言葉に従って、万太郎の嫁となり、峰屋を守っていくことを決意しました。竹雄もこれまで通り、2人を支えていくことを決意しました。おばあちゃんは、綾と万太郎のことを思って、この提案を出してきたように思います。
2人は一旦夫婦になり、ある時期が来たら万太郎は諦めきれず、植物学に向かうでしょう。その時は、残された嫁である綾が峰屋を仕切れるようになるために、2人は少し辛抱することにしました。そうすれば、2人とも自分たちのやりたい道に進んでいけます。
来週も楽しみですね。
心に響くセリフが聞きやすく、自然に入ってくる。脚本・演出・俳優ともに素晴らしい。とても観やすく、毎日楽しみにしています。
アメリカにいた頃の自由を語るジョン万次郎に、このドラマは中々やるなと感じました。大河ドラマでもジョン万次郎は登場してきましたが、『らんまん』のような人間的な苦悩は描かれていませんでした。大河を超えたか。『らんまん』は、身分差別と人間の自由を正面から描くことを目的としており、予想以上に深みのある作品になると感じられます。
万太郎は自分のやることにはっきりと決めているようですね。一方、綾は竹雄に身分はなく、自由にしていいと言いました。ままならなさを超える条件が揃った、自由づくしの週だと思いました。あとはタキです。
この朝ドラマは、モデルとなった牧野富太郎博士の生涯を基に、「自由とは何か」という深い問いに挑むドラマとなっています。最近の作品とは異なり、大河ドラマのような重みを感じます。また、役者の演技も素晴らしく、私はこのドラマが好きです。
ドラマである以上、モデルがいるとしても、綾と竹雄が結ばれる方向に進むことを期待しています。
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