朝ドラ「ブギウギ」菊地凛子さんが演じる淡谷のり子をモデルとした茨田りつ子

菊地が演じるのは、“ブルースの女王”と呼ばれた淡谷のり子をモデルとした茨田りつ子です。彼女はスズ子(趣里)の生涯の良きライバルとして、時に競い合い、時に支え合いながら芸能の世界を生きていきます。

「淡谷さんは『私は自分の歌を歌う』『軍歌は歌いたくない』という姿勢を貫いた方です。歌うことに一生を賭けていらっしゃって、実際に書かされた始末書も相当な量だったそうです。その強さの一方で、表現者なのでちゃんと誰かに寄り添える心持ちの方だったと思っています。女性としてただ強いというよりも、いろんなことを思いやれる、理解できる方だったのではないかと思います。なので、りつ子を演じる際も、人間としての強さは常に持ちつつも、心の深いところではスズ子とお互いにリスペクトしあっている部分を表現できたらいいなと思っています。りつ子とスズ子は実際に手をつないだりはしないけれど、大変な時代の中で、同志として手をつなぎたくなるような瞬間が2人の間にあっただろうと思うんです。その関係性は今を生きる私にもすごく響いています。演じる上で、繊細にお話される淡谷さんの声も大事にしています。言っている内容は強くても音の感じは柔らかく、天使のような声をされていらっしゃいました。そこが魅力的だなと思っていて、『静かで、のどを大事にしている感じ』を意識しながら表現しています」

私は淡谷さんのライブを間近に観たことがあります。彼女はもともとクラシックの声楽を学び、歌唱力や声量は抜群でした。歌う表情も情感豊かでした。ドラマでは毒舌で暗い印象がありますが、歌手仲間のディックミネや藤山一郎とは普通にフレンドリーに接していたようで、ユーモアや茶目っ気もある人だったようです。

私にとって淡谷さんは、「ものまね王座決定戦」の審査員でめちゃくちゃ厳しい評価をするおばあちゃん、というイメージです。淡谷さんのコメントはいつも緊張感があり、90点台の得点を付けると歓声が上がっていました。審査員でありながら、いつも華やかなお衣装を着ていましたね。今回のドラマで、こんなに強く逞しく素敵な女性だったことを知ることができて良かったです。あの時代、女性が自分の信念を貫くことは相当大変だったと思います。淡谷さんは、きっと空から厳しくもにこやかに私たちを見守っているのではないでしょうか。

淡谷さんのご実家は、もともと青森でも非常に有名な大呉服商でしたが、大火事により店が潰れ、大変な苦労を経験された方でした。その経験から、人の気持ちにも寄り添うことができたのかもしれません。私は淡谷さんのお年を召した時代しか知りませんが、子供の頃、テレビで「別れのブルース」を歌う淡谷さんを見ていた時、母親が「この人はこの歌を歌うためにわざわざ声を潰したんだよ」と話してくれたことを思い出します。このような逸話がある淡谷さんは、戦前から自身のスタイルを曲げなかった”じょっぱり精神”を持っていたのかもしれませんし、プロフェッショナルとしても称賛されるべき存在だったのかもしれません。

しかし、そんな淡谷さんが「ものまね王座決定戦」の審査員としてブレイクするとは思いませんでした。清水アキラさんの無礼極まりないモノマネや、「バカじゃない!」や「やればできるじゃない!」といった一言は、下手な漫才よりも笑えて、私の記憶から消えることはありません。

菊地さんは淡谷のり子を演じる上での意気込みを感じます。実際、菊地さんは淡谷さんの話し方まで本人に近づけており、最近はどことなく顔まで似てきているように見えます。茨田りつ子のドレッシーな装いと徹底した姿勢は、どこにいてもユーモラスで私はファンになりそうです。

晩年、別れのブルースを歌っている淡谷さんを見たことがあります。音程が外れていて、やっと歌っている感じでした。それを見た母は驚きとがっかりしていましたが、子供心に「この人、すごい偉大な歌手の一人なんだろうな」と思いました。私は清水アキラさんに厳しいツッコミをする姿しか見たことがなかったので、それ以外の一面を知ることができて良かったです。

淡谷さんの一本筋が通った姿勢については存じ上げていますが、生前の淡谷さんのインタビューで忘れられないのが、地方のショーに行ったら、看板に「ズロースの女王」と書いてあったというお話です。受け狙いではなく、淡々とおっしゃったかと思いますが、絶妙なおかしみがあり忘れられません。

また、私の母は戦時中、軍需工場に行く途中の電車の中で淡谷さんを見たことがあります。淡谷さんはまさにブギウギに出てくるような出で立ちだったそうです。

淡谷さんの清水アキラさんとの絡みも、こうした背景を見ると、また違った見方ができます。淡谷さんは堂々とした存在でした。

なるほど、と改めて感じました。

小堺さんが、淡谷さんがゲストで出演した際に「ブルースの女王」と呼んでいたことが、今になってようやく理解できました。

近江俊郎先生や淡谷のり子先生など、皆さんは控えめながらも存在感を示されていました。その中で、今の年寄りと比べると、口ばかりで中身がないと感じてしまいます。

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