朝ドラ「虎に翼」優三さん役の仲野太賀さんの演技力

虎に翼

以前、菅田将暉さんが「凄いと思う役者」として仲野太賀さんの名前を挙げていましたが、私も本当にその通りだと思います。ここ数年、テレビドラマを面白いと感じることが少なかったのですが、『虎に翼』に魅了されたのは、寅ちゃんと優三さんの掛け合いが軽妙で楽しかったからです。仲野さんは本当に素晴らしい役者さんですね。優三さんの役を仲野さんが演じてくれて本当に良かったです。

虎に翼を第1話から見直すと、意外と優三さんの表情がしばしば映し出されていることに気づきました。このドラマ全体に和みと可笑しみをもたらしています。そして、亡くなってからも守護天使のようにドラマに温かい眼差しを感じさせてくれます。また登場してくれないかな、と心待ちにしています。

仲野太賀さんのすごいところは、見た目は仲野太賀なのに、虎に翼では優三さんでしかないし、他のドラマや映画ではその役の人物にしか見えないことです。たくさんのドラマに出演しているにもかかわらず、仲野太賀がたくさん出ているという認識があまりない。それほどまでに役に溶け込んで、自然にそこにいるように思えます。

私は「ゆとりですがなにか」に出演していた時のゆとりモンスターから彼を知りましたが、技巧派の主演3人と同等かそれ以上の存在感を示し、「太賀」という若手俳優の名前を忘れられないものにしました。その後に中野英雄さんの息子と知りましたが、大変失礼な話ですが、彼は父よりも大成するだろうと感じました。彼の2枚目ではないけれど、コミカルで尚且つ憂いを帯びた演技ができる役者は稀有な存在なのではないでしょうか。また、アラスカを歩く「TRAIL」という動画を見ましたが、彼の演技をしていない面白く真面目な姿を見ることができました。これから更なる活躍をするであろう彼を陰ながら応援しています。

出征のときの変顔だけでなく、ベンチの虎子の向かって左側に座って「虎ちゃん、落ち着いて、深呼吸」と言った後、虎子が気持ちを切り替えて立ち上がって去っていく姿を温かい眼差しで見送った優三さん。生きて、これからがある虎子との対比というか、生きて困難に立ち向かっていく虎子を見上げ、後ろ姿を見送ったあの表情が優しいだけでなく寂しそうにも見えて、とても切なかったです。

寅ちゃんをそっと見つめるシーンが毎回いい表情だなと思って観てきたから、「いい加減気づけよ、寅ちゃん!」と思っていました。意を決したプロポーズだったのに、その手があったか!と喜び勇んで雄三さんも自分と同じく社会的地位を得たいと握手を求めた寅ちゃんに「まあいっか」という表情をした雄三さんも良かったです。また、そんな寅ちゃんをずっと好きだったんだけどね、とお布団のなかで思わずつぶやくシーンも忘れられません。出征していくときの心の声があふれ出しそうなあのせつない雄三さんの泣き笑いもお見事でした。

基本的には二枚目…無い無い!立ち位置としては阿部サダヲに近いかなと思います。「ゆとりですがなにか」や「コントが始まる」の時などでもいい味を出していましたが、個人的には「家族募集します」や「拾われた男」の演技が好きです。内在した優しさを自然に出せる素晴らしい役者さんだと思います。

優三の忘れがたい一瞬の表情はたくさんありますが、やはり出征のとき寅子の変顔を見たあと、泣いているような笑っているような、泣かないように頑張って笑顔を作ろうとしている顔かな。あのシーンは本当に泣けましたし、思い出すと目頭が熱くなります。いつも温かい眼差しで寅子を見守ってくれていましたね。優三がイマジナリーで現れて、寅子に「無我夢中な顔が大好き、後悔のないようやりきって」と優しく語りかけたり、「トラちゃん、深呼吸」と言う場面も良かったです。優三は掛け替えのない存在です。

仲野太賀さん、大好きで期待の役者さんです。お父様のことも知っていますが、二世とか関係なく、役者になるために生まれてきた人だなぁと思います。

優三さんの表情やコミカルなシーン、フレームインさえしていれば脇役でも非常に印象深い演技をなさっています。とらちゃんとの初めての夜で瞬時に爆睡してしまうシーンには笑いました。もっと出演していてほしかったです。

「今日から俺は!」の今井役で太賀さんを知り、大ファンになりました。あの可愛さ、可笑しさ、優しさ、漢気!「虎に翼」では普段頼りないのに、猪爪家が地検に踏み込まれたときに「せめて土足はご遠慮ください」と譲らなかった勇気。あの数秒でハートを射抜かれました。チャップリンのような存在と例えるのも納得です。

この方の演技が大好きです。特に寅子との別れのシーンの仲野さんの表情はなんとも言えず、ドラマとはいえ現実味がありすぎて号泣してしまいました。これから歳を重ねるにつれてさらに深い演技ができる役者さんになるだろうと楽しみです。

私はNHKドラマ「植物男子ベランダー」の主人公の息子役で初めて知りました。印象に残る何かがあったのでしょう。映画では「この素晴らしき世界」が非常に良かったです。

優三さんで印象に残っているのは、出征の時変顔の後に涙を目にいっぱいためて無理やり笑顔を作っているシーンです。こう書いているだけでうるっとしてしまいます。虎ちゃんが辛い時に不意にベンチに現れる優三さんに何度も泣きました。あれは虎ちゃんに聞こえていたのか、妄想だったのか。隣に虎ちゃんがいないベンチに現れたときの寂しそうな表情が非常に印象的でした。あれは別れを惜しんでいたのでしょうか?

出征するシーンで、お互いに変顔をするところは本当に感動的でした。仲野さんと伊藤沙莉さんの二人だからこそ成り立つ名シーンだったと思います。この記事を読みながら、仲野太賀さんは現代日本のチャップリンだと思いました。ゆとりモンスターから心優しき夫まで幅広い演技ができ、そのどれにも染まらない稀有な存在ですね。

あの出征の朝の別れのシーン、仲野さんの泣き笑いの表情の作り方が見事でした。思えば、2013年の「あまちゃん」ではまだそれほど認知されていなかった仲野さんが、しがないAD役で出ていましたが、その頃から人の優しさや暖かさが伝わる上手い芝居をしていたのを覚えています。勝地涼さんが演じた前髪クネ男の陰に隠れて全く話題にはなりませんでしたが。

父親の無罪が告げられた時、一同は歓声を上げる中で仲野太賀さんだけは安堵した感情を押し込んだ演技をしていました。短い尺だったにもかかわらず、誰よりも印象に残っています。芝居が上手い人とはこういう人のことを指すのだと思いました。

大河ドラマ「いだてん」の小松役では、出征の時に「自分の子供は体が弱いから、3歳になったら冷水浴をさせてください」とお願いするシーンで涙が止まりませんでした。映画「すばらしき世界」のフリーライター役も素晴らしかったです。

私も優三さんのような優しくて自分を全肯定してくれる人に出会いたかったです。寅ちゃんが羨ましいです。だからこそ、本当に生きていてほしかった。戦争は人の人生を台無しにする嫌な時代です。決して繰り返してはいけません。

太賀さんに初めて出会ったのは、2010年のNHKドラマ「15歳の志願兵」です。心に残る素晴らしいドラマで、太賀さんの全身全霊の演技が忘れられません。

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